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大阪地方裁判所 昭和62年(ワ)7745号 判決 1988年6月23日

原告

長谷川勇

被告

株式会社マルコー運送

主文

被告は、原告に対し、金五八九万一〇三三円及びこれに対する昭和六〇年五月一一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

原告のその余の請求を棄却する。

訴訟費用はこれを五分し、その二を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。

この判決は、原告勝訴の部分に限り、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

被告は、原告に対し、金一〇〇〇万円及びこれに対する昭和六〇年五月一一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は、被告の負担とする。

仮執行の宣言。

二  請求の趣旨に対する答弁

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は、原告の負担とする。

第二請求原因

一  事故の発生

1  日時 昭和六〇年五月一〇日午後五時五〇分頃

2  場所 京都市上京区智恵光院通一条下ル南新在家町三四七の二(交差点)

3  加害車 普通貨物自動車(京四四あ四七七三)

右運転者 小西秀男

4  被害車 原動機付自転車(京都市上け六六八三)

右運転者 原告

5  態様 南進中の加害車と西進中の被害車が出会い頭の衝突をした。

二  責任原因

運行供用者責任(自賠法三条)

被告は、加害車を所有し、自己のために運行の用に供していた。

三  損害

1  受傷・治療経過等

(一) 受傷

右急性硬膜下血腫、脳挫傷等

(二) 治療経過等

入院

昭和六〇年五月一〇日から同年七月五日まで京都第二赤十字病院

昭和六〇年七月五日から同年一一月一二日まで嵯峨病院

(三) 後遺症

原告は、前記傷害により外傷性精神病となり(昭和六一年二月八日症状固定)、労働者災害補償保険後遺障害等級第一級の認定を受けた。

2  治療関係費

(一) 治療費 五九〇万四四一六円

(二) 入院雑費 二四万四四〇〇円

入院中一日一三〇〇円の割合による一八八日分

(三) 入院付添費 八四万六〇〇〇円

入院中近親者が付添い、一日四五〇〇円の割合による一八八日分

3  逸失利益 二一一一万四四五〇円

原告は前記後遺症のため、その労働能力を一〇〇%喪失したものの、事故当時は健康体で労働意欲もあつたから、その逸失利益は賃金センサス(年収三二〇万四五〇〇円)によつて算定すべきであり、原告の就労可能年数は昭和六一年二月二八日(六一歳)から八年間と考えられるから、原告の将来の逸失利益を年別のホフマン式により年五分の割合による中間利息を控除して算定すると、二一一一万四四五〇円となる。

4  慰藉料

(一) 入通院慰藉料 二〇〇万円

原告は、本件事故による傷害により入通院したが、その精神的苦痛を慰藉するためには右金額が相当である。

(二) 後遺症慰藉料 二〇〇〇万円

原告は、本件事故により前記後遺症が残つたが、その精神的苦痛を慰藉するためには右金額が相当である。

5  将来の介護料 四五九九万円

原告は、後遺症のため将来にわたり付添いが必要であり、近親者の付添いが不可能であるため職業的付添人を依頼すれば、その日当は一万円を下らない。

六一歳男子の平均余命は一八・四六年であるから、将来の介護料を年別のホフマン式により年五分の割合による中間利息を控除して計算すると、次式のとおりとなる。

1(万円)×365(日)×12.6=4599(万円)

6  家屋改造費 三〇九万円

原告は、移動に車椅子が必要なため、自宅の風呂・便所等の改造を行つた。

7  弁護士費用 一五〇万円

原告は、被告が右損害を任意に支払わないため、原告代理人に本件訴訟の提起・追行を依頼したが、弁護士費用として右金額が相当である。

8  総損害額 一億〇〇六八万九二六六円

四  損害の填補 三二五七万一四二〇円

原告は、次のとおり支払を受けた。

自賠責保険金から 二五四〇万円

被告から 五〇万円

近畿トラツク共済から 四二万四〇〇〇円

労災保険から

療養補償給付として 五九〇万四四一六円

休業補償給付として 三四万三〇〇四円

五  本訴請求

よつて、右損害金の内金として、請求の趣旨記載のとおりの判決(遅延損害金は民法所定の年五分の割合による。)を求める。

第三請求原因に対する被告の答弁

一は認める。

二は認める。

三は不知ないし争う。

四は認める。

第四被告の主張

一  損害について

原告の事故当時の収入は月額一二万円であるから、逸失利益の算定も右金額を基準にすべきである。

原告のような後遺症が残存する場合、平均余命まで生存する可能性には疑問があり、症状の変化する可能性もあるので、将来の介護料についてはできる限り控え目に算定すべきである。

家屋改造費についても真に必要な改造費に限定されるべきである。

二  過失相殺

本件事故の発生場所である交差点は、交通整理の行われていない交差点で、加害車の通行していた道路が明らかに広い道路であり、被害車側の道路には一時停止の標識があつたのであるから、原告はこの標識に従い一時停止したうえ左右の安全を確認して通行すべき義務があるのにこれを怠り交差点に進入したものであり、しかもヘルメツトを着用していなかつたのであるから、損害賠償額の算定にあたり過失相殺されるべきである。

三  損害の填補 三六四万二九五〇円

本件事故による損害については、原告が自認している分以外に、次のとおり損害の填補がなされている。

労災保険から

休業特別支給金として 一四万四四五〇円

障害特別支給金として 三四二万円

治療費として 七万八五〇〇円

第五被告の主張に対する原告の反論

加害車の運転手は、制限速度三〇キロを超える五〇キロの速度で加害車を運転していたのであるから、その過失のほうが大きい。

ヘルメツトの着用が義務づけられたのは昭和六一年七月五日であつて、本件事故当時は着用義務はない。

第六証拠

証拠関係については、本件記録中の書証目録及び証人等目録の記載のとおりであるから引用する。

理由

第一事故の発生

請求原因一の事実は、当事者間に争いがない。

右争いのない事実にいずれも成立に争いのない乙第一、第三、及び第五号証並びに弁論の全趣旨を総合すると、事故の具体的な態様については以下の通りと認められる。

本件事故現場は、交通整理の行われていない交差点で、加害車の通行していた道路の方が広く、被害車の通行していた道路は西行きの一方通行で、交差点手前に一時停止の標識がある。

加害車は北から南に向かつて時速約四〇キロ(制限速度は三〇キロ)で交差点に進入し、左前方一〇・一五メートルに被害車を発見したものの一時停止するものと安易に考え、速度を三〇キロ程度に減速して進行したが、被害車がそのまま進んできたため急ブレーキをかけたが、及ばず、自車左前部を被害車右側面に衝突させた。

原告は、当時雨が降つていたため合羽を着用したもののヘルメツトを被らずに被害車を運転し、ゆつくりとした速度で東から西に向かつて交差点に差しかかり、一時停止も左右の確認もしないまま漫然と進行して加害車と衝突した。

第二責任原因

運行供用者責任

請求原因二の事実は、当事者間に争いがない。

したがつて、被告は自賠法三条により本件事故による原告の損害を賠償する責任がある。

第三損害

1  受傷・治療経過等

いずれも原本の存在及び成立に争いのない甲第二及び第三号証並びに成立に争いのない甲第一四号証に弁論の全趣旨を総合すれば、請求原因三1(一)(二)(三)の事実が認められる。

2  治療関係費

(一)  治療費 五九八万二九一六円

いずれも成立に争いのない甲第一三号証の一、二及び乙第一〇号証の一ないし七によれば、治療費の総額は右金額である。

(二)  入院雑費 二四万四四〇〇円

原告が一八八日間入院したことは前記のとおりであり、右入院期間中一日一三〇〇円の割合による合計二四万四四〇〇円の入院雑費を要したことは、経験則上これを認めることができる。

(三)  入院付添費 八四万六〇〇〇円

前認定の受傷・治療経過等の事実及び経験則によれば、原告は前記入院期間中近親者の付添看護を要し、その間一日四五〇〇円の割合による合計八四万六〇〇〇円の損害を被つたことが認められる。

3  逸失利益 二三九五万二五五六円

前記認定の受傷並びに後遺症の部位程度によれば、原告は前記後遺症のため、昭和六一年二月二八日からその労働能力を一〇〇%喪失したものと認められる。

そして、弁論の全趣旨により真正に成立したと認められる甲第四、第五号証及び証人長谷川清子の証言によると、原告は、事故当時息子の経営する会社の監査役として月額一二万円の報酬を得るとともに、三洋電機クレジツト株式会社にアルバイトとして一日約三時間半勤務していたことが認められるので、原告の逸失利益の算定に当たつては月額一二万円の割合によるよりも賃金センサスによることが相当と認められる。

昭和六〇年の六一歳男子の平均賃金は年間三二九万一〇〇〇円、原告の就労可能年数は昭和六一年二月二八日(六一歳)から九年間と考えられるから、原告の将来の逸失利益を年別のホフマン式により年五分の割合による中間利息を控除して算定すると、二三九五万二五五六円(円未満切捨て)になる。

3,291,000×7.2782=23,952,556

4  慰藉料 二二〇〇万円

本件事故の態様、原告の傷害の部位、程度、治療の経過、後遺症の内容程度、原告の年齢その他諸般の事情を考え合わせると、原告の入通院慰藉料額は二〇〇万円、後遺症慰藉料額は二〇〇〇万円とするのが相当であると認められる。

5  将来の介護料 一三〇四万九四九八円

前掲甲第五号証及び長谷川証言によれば、原告は前記後遺症のため常時監視と介護が必要であるが、昭和六二年一〇月一二日から嵯峨病院に再び入院していることが認められ、原告の年齢、病状等を考慮すると、少なくとも向後一〇年間、一日当たり四五〇〇円の介護料を要するものと認めるのが相当である。

そこで将来の介護料を年別のホフマン式により年五分の割合による中間利息を控除して計算すると、一三〇四万九四九八円(円未満切捨て)となる。

4,500×365×7.9449=13,049,498

6  家屋改造費 三〇九万円

前記長谷川証言によりいずれも真正に成立したと認められる甲第八、第一一号証及び同証言によれば、原告の介護のため自宅の改造が必要となり、風呂、便所、渡り廊下の改造に三〇九万円を要したことが認められる。

7  以上の損害額の合計は六九一六万五三七〇円である。

第四過失相殺

前記第一認定の事実によれば、本件事故の発生については、原告にも交差点の手前で一時停止し左右の安全を確認したうえで進行すべき注意義務違反の過失が認められるところ、前記認定の事故の状況、被告の過失の態様等諸般の事情を考慮すると、過失相殺として、原告の損害の四五%を減ずるのが相当と認められる。

被告は、原告にはヘルメツト不着用の過失がある旨主張するが、本件事故当時、原動機付自転車の運転者にはヘルメツト着用義務が課せられていなかつたことは明らかであるから、この点を過失と捕らえることはしない。

そうすると、被告の負担すべき損害額は三八〇四万〇九五三円となる。

第五損害の填補 三二六四万九九二〇円

請求原因四の事実は、当事者間に争いがない。

前掲乙第一〇号証の一ないし七によれば、被告が治療費として七万八五〇〇円を支払つたことが認められる。

被告は、労災保険から支給された休業特別支給金及び障害特別支給金を損害賠償額から控除すべき旨主張するが、これらは労働福祉事業の一環として労働者災害補償保険法二三条により支給されるもので、損害の填補を目的としたものではないから、損害賠償額から控除すべきものではない。

よつて、原告の前記損害額から右填補分三二六四万九九二〇円を差し引くと、残損害額は五三九万一〇三三円となる。

第六弁護士費用 五〇万円

本件事案の内容、審理経過、認容額等に照らすと、原告が被告に対して本件事故による損害として賠償を求め得る弁護士費用の額は、五〇万円と認めるのが相当である。

第七結論

よつて、被告は、原告に対し、本件損害賠償金五八九万一〇三三円及びこれに対する本件不法行為の翌日である昭和六〇年五月一一日から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金を支払う義務があり、原告の本訴請求は右の限度で正当であるからこれを認容し、その余の請求は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条、仮執行の宣言につき同法一九六条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 中村隆次)

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